いけた。
「由、あとで、燒けてから食へたえなんて云ふなよ。」
 由はワザと別な方を見て、そのまゝ身體を横へごろりところがした。
 お文はランプの下に縫ひかけの着物を持つてきた。それから自分の芋を、灰にいけた。
「寒くなつた。もう雪だべ。嫌《えや》だな、これからの北海道つて! 穴さ入つた熊みたいによ。半年以上もひと足だつて出られないんだ――嫌になる。」
「嫌だつてどうなるか、えゝ。」
「どうにもならないからよ。」
「んだら、だまツてるもんだ。」
「……」フンとしたやうに「默つてるさ――」
 由は寢ころびながら、物差をもつて、それをしのらしたり、なんだりしてゐたが、それで今度は姉の身體に惡戲し出した。初め、お文はプン/\してゐたので分らなかつた。無意識に、惡戲された處へ手をやつた。それが由には面白かつた。何度もさうした。それから首筋に物差の端をつけた。お文は今度は氣付いて、
「これ!」と云つた。
 もう一度やつた。そして、「やア、こゝに、姉の首にかた[#「かた」に傍点]がついてるど。」と云つて、そこ[#「そこ」に傍点]をつツついた。
 お文はいきなりふり向くと、物差を力まかせにとりあげてし
前へ 次へ
全140ページ中14ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小林 多喜二 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング