え》つたら、怒られたど。」
「んだべよ。」
「兄、狐、犬よんか弱いんだべ。」
源吉はだまつてゐた。
「吉川の母《ちゝ》かなし/\ツて泣いてたど。眼ば眞赤にしてよ。」
お文は裏の納屋に提灯をつけて入つて行つた。入口のすぐ片隅に積んである俵の中へ手を入れて、馬鈴薯をとり出した。それを自分の前掛の中に入れた。鼠がガサ/\と奧の方へ走つて行つた。提灯の影が眞暗な物置の天井に、圓く動いた。
「ホラ、芋だ。」
お文は、歸つてきて、爐邊へ前掛から芋をあけた。
「芋か――くそ、うまぐねえで。」
由はそれを仰向けに寢ながら足先で、あつちこつちへ、ごろ/\させて、惡戲した。
「ん、この罰當り!」せき[#「せき」に傍点]がその足を火箸でなぐつた。由は足をちゞめると、舌を出した。
「吉川でなんか、薩摩芋ばくつてたど。」
「今に、見てれ、その足腐つて行ぐから。」
源吉は大きく兩腕を平行線にグツと上にのばして、あくびをした。その影が障子で、丁度鬼のやうにうつつた。
「おツかねえ。」由が首をちゞめて、その方をみた。
源吉が振りかへつてみて、「なアんだ、馬鹿!」さう云つて、芋を二つ三つとると、爐の灰の中に
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