ひを感じた。額に油汗がネト/\に出てきた。お芳は額を腕の上にのせた。お芳はしばらくさうしてゐた。痛みはちつとも止まりさうでもなく、その滿ちひきの重なる度に、一つは一つと、痛みがひどくなつて行つた。
「あツ[#「あツ」は底本では「あッ」]――うん、うん――うん、」お芳は腰から下の感覺が、しびれてしまつて、思はず、そこへ坐つてしまつた。腹の中で胎兒が動くのがはつきり分つた。瞬間、豫感が來た。お芳はハツと思ふと、夢中で、ゐざりのやうに臺所を這つた。ひどい痛みのために、黒瞳が變にひきつツて、お芳には、自分のそばが何が何やら見えなかつた。
「あツ痛、――うん――あツ痛、」お芳は齒をギリ/\かみながら、ケイレンでも起したやうになつた。臺所の土間から續いてゐる納屋の方へ這つて行つた。
納屋の中は暗かつた。藁が澤山積まさつてゐる甘酸つぱい匂ひや、馬鈴薯や、豆類の匂ひや、澤庵漬や鰊漬の腐つたやうな便所くさい臭ひが、ごつちやになつて、お芳にはハキ氣がしてきた。鼠がすぐ側から藁をガサ/\いはせて走つてゆくのを、お芳は感覺の何處かで、ひよいと感じた。お芳は、放り出された毛蟲のやうに、身體をまん圓にして、痛み
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