げ、飴ん棒のやうにねぢり殺してやれ! こいつから先だ!

 二、三日した。
 今度の事件で、地主が普段生意氣な百姓の畑を取りあげてしまふ、といふ噂が村中に立つてきた。差配がそれを云つて歩いてゐるらしかつた。一度とてつもなく打《ぶ》ちのめされて、ウロ/\してゐる百姓達はビク/\に、一日一日を送つて行かなければならなかつた。勿論百姓達が土地を取上げられては、生きるか死ぬかの問題であつた。それに對して、本當に結束を固めて、地主に當らなければならない事であつた。然し、「幹部」を取られてしまひ、殘虐な仕打ちにあつては、百姓達はもう手も足も出ない形だつた。
 お芳が薄暗い臺所に立つて、茶碗を洗つてゐた。家には、町へ出て行つたり、近所の通夜で誰もゐなかつた。
「お通夜さ行《え》げば、お前の噂で、顏が狹くなる。」出しなに父親が云つた事を、お芳が考へてゐた。
「あ、痛た。」お芳は思はず息をのんで、顏に力を入れると、口をゆがめた。又、と思ふと、情ない氣がした。お芳は茶碗を洗ふ手をやめて、臺所の端につかまると、腰をゆがめて、ウン/\うなりながら、こらへてゐた。間をおいて、痛みが襲つてくる度に、クラ/\と目ま
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