しい、「覺えてろ!」源吉は齒をギリ[#「ギリ」に傍点]/\かんだ。彼は何かに醉拂つたやうに、夢中になつてゐた。

      九

 源吉は村に歸つてから二日寢た。
 村は雪の中のあちこちに置き捨てにされた塵芥箱のやうに、意氣地なく寂れてしまつたやうに見えた。鳶に油揚げをさらはれた後のやうに、皆ポカーンとしてしまつた。源吉は寢ながら、然し寢てゐられない氣持で、興奮してゐた。母親が、源吉の枕もとに飯を持つてきて、何時もの泣言交りの愚痴をクド/\してから、フト思ひついたやうに、
「お芳が來てゐたで。」と云つた。
「あつたら奴、ブツ殺してしまへばえゝんだ。」顏も動かさずに、ぶつきら棒に云つた。
「何んだか、お前えに話してえことあるてたど。すつかりやつれてよ。青ツぷくれになつてな。ヒヨロ/\してるんだど。」
「金持のなまツ白い息子さおべツかつくえんた奴だ――!」
「こゝさ來て話すのも、戸口さ手で身體ばおさへてねば駄目だ位だんだ。」
 母親がそれからお芳のことをボツリ/\云つた。――お芳は、まだ然し大學生からの手紙をあきらめ切つてはゐなかつた。夢の中で手紙が配達されて、思はず聲をあげ、その自分の
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