になつて、馬橇を乘り越して行つた。と、その百姓がかぶつてゐたむしろ[#「むしろ」に傍点]が、いきなり剥ぎとられて、空高くに舞上つてしまつた。風は自由氣まゝに、そして益※[#二の字点、1−2−22]強くなつて行つた。
「覺えてやがれ、野郎ツ※[#感嘆符二つ、1−8−75]」
 源吉の胸一杯は、そのまゝ、この吹雪の嵐と同じやうに荒れきつてゐた。
 源吉は前方に眼をやつた。風呂敷包みか何かのやうに馬橇の上に圓く縮こまつてゐる百姓を見ると、それが自分たち全部の生活をそのまゝ現してゐるやうに源吉には思はれた。このかまきり蟲のやうな「敵」が分らず、分らうともせず、蟻やケラ[#「ケラ」に傍点]のやうに慘めに暮してゐる百姓達がハツキリ見えた。彼等だつて、然し今こそ、敵がどいつだか、どんな畜生だか分つたらう。だが、こんなに打ちのめされた善良な百姓達は、もう一度、さうだ今度こそは[#「今度こそは」に傍点]、鎌と鍬をもつて、ふんばつて、立ち上れるか! 敵のしやれかうべ[#「しやれかうべ」に傍点]を目がけて、鍬をザクツと打ちこめるか!
 ――駄目だ、駄目だ、駄目かも知れない、源吉はさう考へた。然し、えツ、口惜
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