つてきた。外套についてゐる細かい粉のやうな雪が、キラ/\と、小さいなりに一つ一つ結晶して、ついてゐた。手先や足先が痛むやうに冷えてきた。鼻穴がキン/\して、口でも耳でも鼻でも、こはばつてちつとでも動かせば、それつきり、割れたり、ピリ/\いひさうでたまらなかつた。皆の馬橇は雜木林の並木が續いてゐる處に出た。それは石狩川の川|端《ぶち》に沿つてゐる林だつた。それで始めて、道を迷はずに來たことが分つた。時々、町からの歸りに、吹雪に會つて、道を迷つたものが、半分死にかゝつて、次の朝とんでもない逆の方向に行つてゐることを發見することがあつた。一樣に平なので、方向の見當が、つかないのだつた。
雜木林は、誰かゞワザ[#「ワザ」に傍点]とにやつてゐるやうなかん高い悲鳴をあげて、ゆれてゐた。それが終ると、その雪をお伴にしてゐる風が、うなりをあげて、平野の中心の方へ、たゝきつけるやうな勢ひで、移つてゆくのが分つた。が、すぐその後から、もつと強いのが追ひかけてきた。源吉の前をゆく馬橇の横で、吹雪が龍卷のやうに大きな物凄い渦卷をつくり、それが見てゐるうちに、大理石のやうな圓筒形のまゝ、別な方からの強風と一緒
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