」を、ハツキリ見た。それが「巡査」といふものと、手をくみ合はせてゐる「からくり」も! ウム、憎い! 地主の野郎! 源吉は齒をギリ/\かんだ。
「覺えてろ※[#感嘆符二つ、1−8−75]」
 雪は眞向から吹きつけるかと思ふと、左側になつてゐたり、後から吹いたりした。馬は全身眞白になつて、年寄つた百姓のやうな、ガラ/\に瘠せた尻を跳ねあげるやうにして、足を動かしてゐた。尻毛[#「尻毛」に傍点]が時々ピシリ/\と身體を打つた。が、風の向きで、その方へなびくこともあつた。眞白になつてゐるたてがみも風通りに動いた。前方を行く馬橇は、吹雪のために、二、三臺位しか見えなかつた。その先きの方は時々、吹雪の工合で、ひよつこり現れたり、見てるうちに又消されたりした。鈴は風の工合でまるつきり聞えないことがあるが、思ひがけなく實際よりもすぐ近く聞えることもあつた。何處からといふことなく、平野一帶がゴウ/\と物凄くうなつてゐた。だん/\薄暗くなつて行つた。
「覺えてろツ!」
 寒さがギリ[#「ギリ」に傍点]/\と、むしろの上から、その下の外套を通して、着物を通して、シヤツを通して、皮膚《はだ》へ、ぢかにつき刺さ
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