先きに立つてゐた百姓の二、三人が「あツ※[#感嘆符二つ、1−8−75]」と、一緒に叫んだ。そして、急に[#「急に」に傍点]馬を止めた。後からの馬は、はずみを食つて、前の馬橇に前足を打つた。後から、「どうした、どうした」「やれ/\!」皆が馬橇の上でのめつたり、雪やぶにとび出したりして、前を見ながら叫んだ。
「大變だ! 巡査だ※[#感嘆符二つ、1−8−75]」
「えツ※[#感嘆符二つ、1−8−75]」皆、ギヨツ! として、瞬間、だんまりの表情人形のやうに、立ちすくんで、前方を見た。――巡査だ! たしかに巡査だつた。
 だが、巡査とは! 百姓は巡査にはなれてゐなかつた。文字通りだじ/\になつて、何が何やら分らずにゐるうちに、手もなく巡査に兩側を守られて、十三人の百姓は警察に連れられて行つた。警察には幹部の百姓も連れて來られてゐた。地主が皆の入つてくるのを見ると、椅子に坐つたまゝ、大聲で笑ひ出した。その夜まで皆は、ブル/\震ひながら、駐在所の後の小さい室に押しこめられてゐた。巡査が三人もついてゐるので、お互が一言も話すことが出來なかつた。表からは、何頭もの馬のいなゝきや足がき[#「足がき」に
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