やつつけたかも知れない。――それは、誇張なくさうだつた。
 防雪林を出ると、鐵道線路の踏切があつた。
 一番先頭に立つてゐたのが、いきり立つてゐる馬の手綱を力一杯に身體を後にしのらして引きながら、踏切番に、汽車をきいた。
「馬鹿に澤山だな、どうしたんだ。汽車はまだゞ。えゝよ。」
 顏を見知つてゐた踏切番が、柄に卷いた白旗をもつて、出てきた。
「ぢや、やるよ!」
 そのために、一時とまつた馬橇が、又順に動き出した。その踏切を越すと、今度は鐵道線路に添つてついてゐる道を七、八丁行けば、それで町には入れた。「さあ、愈※[#二の字点、1−2−22]しめてかゝるんだぞ。」さういふのが、前から順次に皆に傳つてきた。
 町の入口に、七、八人の人が立つてゐるのが、眼に入つた。はつきり人は分らなかつた。が、先頭に立つてゐたのが、大きな聲で呼んだり、自分の帽子を振つて合圖をした。入口の七、八人は動かずに、こつちの方を見てゐるらしかつた。向ふには分らないのか、こつちからの合圖には、何も返事をしてゐるらしいしるしが無いやうに思はれた。
 一寸すると、それ等の人が、一度に、こつちに向つて走つてくるらしかつた。

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