てゐる處などから、石鹸泡のやうな汗をブク/\に出してゐた。舌をだらり出して、鼻穴を大きくし、やせた足を棒切れのやうに動かしてゐた。充分に食物をやつてゐない、源吉の馬などはすつかり疲れ切つて、足をひよいと雪道に深くつきさしたりすると、そのまゝ無氣力にのめりさうになつた。源吉は、もうしばらくしたら、馬を賣り飛ばすなり、どうなり、處分をしなければならないと、考へてゐた。
 十二、三臺もの馬橇が鈴を一せいに、雪の廣野に、おつぴらに響かせながら、前や後が時々呼びかはしたり、物々しく、精一杯に一散に走つてゐるうちに、それが、不思議に、こそくな百姓達の氣持を、グン/\殺バツ[#「殺バツ」に傍点]な、誰でも、なんでも來い、といふ氣持に引きずつて行つた。四十をずつと過ぎてゐる、普段はおとなしい房公さへが、
「地主の野郎、下手なごとしたら、袋たゝきだ。」さう、大聲で源吉に云つた。そして、さういふ氣勢が、云はず語らず、皆の氣持を横に、太く強く一本に結びつけてゐた。若し、彼等の前に何か邪魔ものが出たとしたら、それがどんなものであらうと、騎兵の一隊が敵陣の眞只中に飛び込んで、馬の蹄で縱横に蹴ちらすやうに、一氣に
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