くねつてついてゐる道を、勢ひよく走つて行く一列が見えた。遠くから、その橇の調子のいゝ鈴の音が聞えてきた。時々、雪煙が、パツ/\と上つた。後の方の馬橇で先頭のが見えなくなつたかと思ふと、道が逆に曲つてゐる處にくると、その先頭の方が玩具のやうに小さく見えたりした。一列はその度毎にまるで、のびたり、ちゞんだりくねつたり、する黒い糸筋のやうに見えた。それが雪の平野だけに、はつきり目についた。そしてリン/\といふ鈴の音が、遠くに聞えたり、急に近くに聞えたりした。母親は、氣でも呑まれた人のやうに、じつと立つて、それを見てゐた。フト、自分に歸ると、「なんまんだ/\/\。」と云つた。
 停車場のある町では、幹部の百姓達が待つてゐることになつてゐた。雪道が、細くなつて續いてゐる行手に、防雪林の一列がみえ、すぐそこから電信柱や電氣柱が鉛筆を何本も立てたやうにみえ、煙草の煙程の、ストーヴの煙がシヨボ/\空に上つてゐるのが見える所迄來た。もうすぐだつた。
「どうだい、この威勢は!」
 源吉の前の房公が、振りかへつて云つた。
「うまく行くツかい?」
 源吉はあいまいな返事をした。
 どの馬も口や馬具が身體に着い
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