何頭來たとか、誰々だとか、一つ/\云つて母に知らせた。表の騷ぎはだん/\大きくなつて行つた。馬のいななく聲や鈴の音や、百姓達が、前や後の仲間を呼び交はすやうにしやべつてゐるのや、それ等が一つになつて、どよめき[#「どよめき」に傍点]になつて聞えた。由は、うれしがつて、窓にぴつたり顏をあてながら、一生懸命に表を見てゐた。母親は、獨言のやうに、「罰當り」とか、「ふんとに碌でなし」だとか云つた。表へは出て見なかつた。
やがて、馬車が一齊に動き出した。鈴の音が、空氣でもそのまゝ凍えるやうな寒い空に、朗かに、しかしそれだけブルツとするほど寒さうにひゞきわたつた。それに百姓の馬をしかる聲や、革でぴしり/\打つ音や、馬のいなゝきなどが、何か物々しい、生々した、大きな事が今起らうとしてゐるやうに聞えてきた。
何臺も何臺も過ぎて行つた。誰かゞ源吉の家に言葉をかけてゆくものがあつた。母親は、やうやく戸をあけて表へ出てみた。その時は丁度もう終りさうで、鈴木の石が、母親をみて、「やア、お婆さん、行《え》つてくるど!」と言葉をかけた。
見ると、涯もなく廣がつてゐるたゞ雪ばかりの廣野を、何臺もの馬橇がまがり
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