るモシヤ/\した髮の下から、皮だけたるんだ、生氣ない首筋が見えた。肩がすつかり前こゞみになつて、腰もまがつてゐた。帶の代りにヒモ[#「ヒモ」に傍点]をしめてゐた。身體全體がまるで握り拳位にしか見えなかつた。源吉は今更、氣付いたやうに、「年寄つたなア!」さう、思つた。
 源吉は、今度のことでは、自分から、といふ風な氣乘りはなかつた。反對にこんな煮え切らないことなんて、見てろ、と思つてさへゐた。
 一寸すると、遠くで、馬橇の鈴の音が聞えてきた。
「ホラ、兄。」由が表の方に聞耳をたてゝ云つた。
 源吉は、どつこいしよ、と云つた風に腰をあげて、表へ出て行つた。
 母親はため息[#「ため息」に傍点]をして、ブツ/\何か口の中で云つた。そして、腰をのばして、表の方を見た。「氣ばつけて行くんだで。」源吉の後からさう云つた。
 源吉は、一寸、振返つて、母親を見た、が、そのまゝ戸をしめて、出た。
 卷舌で、馬の手綱をとるのが聞えた。後から來た仲間と何か話してゐる。走つてきた馬が、いきり立つて、首を高くあげながら、嘶いた。鈴は、後から後からと聞えてきて、十二、三臺もとまつたらしかつた。由は、窓から覗いて、
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