れて行つて、お前達のものビタ/\片ツぱしから差押へてやるから。」
 皆の出てゆく後を丸太棒でゞもなぐりつけるやうに、惡態をついた。五人とも涙を眼に一杯ためて、興奮してゐた。
 幹部の百姓と、校長先生とは、すぐこの結果を、村中の百姓に一時も早く知らせて、皆を極度に激昂させ、その滿潮に乘つた勢ひで、やつてのけなければならないことを相談した。――「鐵は赤いうちに」! そして、一方、先生が町へ行つて、賣却の交渉を濟ませて置くことが、勿論必要な緊急事だつた。
「團結だ! 團結だ! 一人も殘らず團結だ!」
 百姓の二、三人は、先生の使ふ「團結」といふ聞き覺えた言葉を使つて、叫んだ。

      八

 その朝、まだ薄暗いうちに、村の百姓は(川向ひの百姓も)馬橇に雜穀類を積んだ。
 源吉は寒さのためにかじかんだ[#「かじかんだ」に傍点]手を口にもつて行つて息をふきかけながら、馬小屋から、革具をつけた馬をひき出した。馬はしつぽ[#「しつぽ」に傍点]で身體を輕く打ちながら、革具をならして出てきた。が、外へ出かゝると、寒いのか、何囘も尻込みをした。「ダ、ダ、ダ……」源吉は口輪を引つ張つた。馬は長い顏だけ
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