の時だけ立ちどまつたが、もどりもせずに、結果を待つてゐる「幹部」のところへ、走つた。
それで、――それで百姓達が、やうやく、殺氣立つてきた「やうに見えた」。自然、そして幹部から、その氣勢が、だん/\一人々々と、傳つて行つた。誰も何んとも云はなくても、石山の家に、成行きを知るために、百姓がわざ/\出掛けてくるものも出來てきた。無口な百姓も、口少なではあるが、苛立つた調子で、ムツツリ/\ものを云つて行つた。
源吉達は、もう雪も固まつたので、山へ入る時期だつたけれども、この方が片付くまで行けなかつた。それに今では皆、そんな處でない、と思ふほど、興奮してゐた。石山の家に寄り合つて、色々の話をきいたりしてゐるうちに、殊に若い百姓などは、「地主つて不埓だ!」さういふ理窟の根據が分つてくるのが出てきた。始め「さうかなア」と思つて、フラ/\した氣持のものが、「野郎奴」などと云つてきた。澤山集ることがあると、校長先生は、手振りや、身振りまでして、「佐倉宗五郎」や「磔茂左衞門」などの義民傳を話してきかせた。それが、處が、理窟なしに百姓の頑固な岩ツころのやうな胸のすき間々々から、にじみ入つて行つた。それ
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