になつて、同じことを、何度も云ふのを飯を食ひながらきいてゐた。それから、眼鏡を袂から出して、袖で玉を一々丁寧にふきながら、「何しに來やがつた。警察さ突き出されたくてか※[#感嘆符疑問符、1−8−78]」と云つた。
そして、「陳述書」を五分も十分もかゝつて讀んでしまふと、「馬鹿野郎。一昨日《をとゝひ》來い!」と、どなつて、それを石山の膝に投げかへしてよこした。
「いつの間に、かう百姓生意氣になつたべ。」
口の中に手をつツこんで、齒の間にはさまつてゐるのを、とつてゐた丸山が、そばから口を入れた。
さう云はれると、石山は急に、不思議に、太々しい、何時もの元氣がかへつてきた。
「覺えてゐやがれツ!」向き直つて、タンカを切つた。
丸山は、穩かに、百姓はそんなことをするもんでない、地主は親で、俺達は子供のやうなものだ、何事も堪へしのんで働くことは立派なことだ。歸つたら、皆んなにさう云つた方がいゝ、差配さんには自分からよく頼んで置いてあげるから、と云つた。
「糞でも喰へツ!」石山はそのまゝ表へ出てしまつた。
一寸行つてから、帽子を忘れてきたことに氣付いた。石山はプン/\しながら、ひよいとそ
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