るから、雪が消えたら、家をあけろ、と云つた。女や子供に、ワン/\泣かれると、澤はすつかりオロ/\して、この前の會合の仲間へ、それを云ひに行つた。「幹部」の百姓は、急に、それで騷ぎ出した。そして、すぐ學校へ寄り合ふと、今更新しいことのやうに、この前と同じ相談を又やり直した。
「どうしても、やらなけアならないかな。」年寄つたのが、そんな事を云つた。が、他の「幹部」は、今時、こんな事を云ふのをきいても、「冗談云つちや困る」とさへ思はなかつた。かへつて、首を一緒にかしげて考へこんだりした。そして、
「まあ、さうしなけアなんねえべ。」と、そんな事になつた。
 それから、何邊も同じ事を、グル/\繰りかへして、「がつしりかゝつてやるべ。」といふことに決つた。それで皆が、やうやく別れた。
 差配が今年度分の小作料のことで、村にやつてきて、村の重だつた――小金をためてゐる丸山の家にゐることが分つたので、「幹部」の一番若い元氣のいゝ石山が、校長先生の入智慧で作りあげた恐ろしく漢字の多い、石山自身にさへ、さうはつきり文句も意味も分らない「陳述書」をもつて、出掛けて行つた。
 差配は、石山がドモリながら、眞赤
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