た。
源吉はズブ濡れの身体《からだ》をすっかりロープで縛られていた。そしてその綱の端が棒頭の乗っている馬につながれていた。馬が少し早くなると(早くするのだ)逃亡者はでんぐり返って、そのまま石ころだらけの山途《やまみち》を引きずられた。半纒《はんてん》が破れて、額や頬《ほお》から血が出ていた。その血が土にまみれて、どす黒くなっている。
皆は何んにも言わないで、また歩きだした。
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(体を悪くしていた源吉は死ぬ前にどうしても、青森に残してきた母親に一度会いたいとよくそう言っていた。二十三だった。源吉が、二日前の雨ですっかり濁って、渦《うず》を巻いて流れていた十勝川に、板一枚もって飛びこんだということはあとで皆んなに分った)
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* *
飯がすむと、棒頭が皆を空地に呼んだ。
まただ!
「俺ァ行きたくねえや……」皆んなそう言った。
空地へ行くと、親分や棒頭たちがいた。源吉は縛られたまま、空地の中央に打ちぶせになっていた。親分は犬の背をなでながら、何か大声で話していた。
「集まったか?」大将がきいた。
「全部だなあ
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