人を殺す犬
小林多喜二
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)十勝岳《とかちだけ》が
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#「まぶゆく」に傍点]
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右手に十勝岳《とかちだけ》が安すッぽいペンキ画の富士山のように、青空にクッキリ見えた。そこは高地だったので、反対の左手一帯はちょうど大きな風呂敷を皺《しわ》にして広げたように、その起伏がズウと遠くまで見られた。その一つの皺の底を線が縫って、こっちに向ってだんだん上ってきている。釧路《くしろ》の方へ続いている鉄道だった。十勝川も見える。子供が玩具にしたあとの針金のようだった、がところどころだけまぶゆく[#「まぶゆく」に傍点]ギラギラと光っていた。――「真夏」の「真昼」だった。遠慮のない大陸的なヤケに熱い太陽で、その辺から今にもポッポッと火が出そうに思われた。それで、その高地を崩していた土方《どかた》は、まるで熱いお湯から飛びだしてきたように汗まみれになり、フラフラになっていた。皆の眼はのぼせて、トロンとして、腐った鰊《にしん》のように赤く、よどんでいた。
棒頭《ぼうがしら
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