?」そう棒頭が皆に言うと、
「全部です」と、大将に答えた。
「よオし、初めるぞ。さあ皆んな見てろ、どんなことになるか!」
 親分は浴衣《ゆかた》の裾《すそ》をまくり上げると源吉を蹴《け》った。「立て!」
 逃亡者はヨロヨロに立ち上った。
「立てるか、ウム?」そう言って、いきなり横ッ面を拳固《げんこ》でなぐりつけた。逃亡者はまるで芝居の型そっくりにフラフラッとした。頭がガックリ前にさがった。そして唾《つば》をはいた。血が口から流れてきた。彼は二、三度血の唾をはいた。
「ばか、見ろいッ!」
 親分の胸がハダけ[#「ハダけ」に傍点]て、胸毛がでた。それから棒頭に
「やるんだぜ!」と合図《あいず》をした。
 一人が逃亡者のロープを解いてやった。すると棒頭がその大人の背ほどもある土佐犬を源吉の方へむけた。犬はグウグウと腹の方でうなっていたが、四肢《しし》が見ているうちに、力がこもってゆくのが分った。
「そらッ!」と言った。
 棒頭が土佐犬を離した。
 犬は歯をむきだして、前足をのばすと、尻の方を高くあげて……源吉は身体をふるわしていたが、ハッとして立ちすくんでしまった。瞬間[#「瞬間」に傍点]シ
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