出してひくく言ってみた。
「ばか!」少し大きくした。そしてその余韻《よいん》をきいてみた。するときゅうに大きく「ばかッ※[#感嘆符二つ、1−8−75]」と怒鳴《どな》りたくなった。
女は無表情な顔をして酒を持って入ってきた。口の欠けた銚子《ちょうし》が二本と章魚《たこ》の酢《す》ものと魚の煮たものだった。すぐあとから別な背の低い唇《くちびる》の厚い女が火を持ってきた。が、火鉢に移すと、何も言わずに出ていった。
寒かった、龍介はテーブルを火鉢の側にもってきて、それに腰をかけて、火鉢の端《はし》に足をたてた。
「行儀がわるい」女は下から龍介を見上げた。
「寒いんだよ。それより、君はこれを敷け」彼は女に座布団を押してやった。が、女は「いいの」と言って、押しかえしてよこした。
「――冷えるぜ」
「どうせねえ」そして、すすめるとまた「いいの」と言った。
「変だな」彼はそう言って、むりに女に敷かせた。
「どうして兄さん敷かないの」座ってからも女はちょっと落着かないように、モジモジした。それから「じゃ、敷くわねえ」と言った。
女は酒をつぐと、
「ハイ」と彼に言った。
「俺は飲まないんだ。君に飲
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