雪の夜
小林多喜二

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)半端《はんぱ》な

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)二、三度|躊躇《ちゅうちょ》した。

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)ばかッ※[#感嘆符二つ、1−8−75]

×:伏せ字
(例)折ると××××(以下略)
−−−−

     一

 仕事をしながら、龍介は、今日はどうするかと、思った。もう少しで八時だった。仕事が長びいて半端《はんぱ》な時間になると、龍介はいつでもこの事で迷った。
 地下室に下りていって、外套箱《がいとうばこ》を開《あ》けオーバーを出して着ながら、すぐに八時二十分の汽車で郊外の家へ帰ろうと思った。停車場は銀行から二町もなかった。自家《うち》も停車場の近所だったから、すぐ彼はうちへ帰れて読みかけの本が読めるのだった。その本は少し根気の要《い》るむずかしいものだったが、龍介はその事について今興味があった。彼には、彼の癖として何かのつまずきで、よくそれっきり読めず
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