からといってこういう所へは来れなかった。彼は出かけることもあった。が、結局何もせずに帰った。それは普通いう「道徳的意識」からではなしに、彼の金で女の「人間として」の人格を侮辱《ぶじょく》することを苦しく思うことはもっと彼自身にとってぴったりした、生えぬきの気持からだった。
友だちといっしょにこういう処にくることがあった。が、彼はしまいまで何もせずに帰る。そんな時彼は友だちに「童貞の古物なんかブラ下げているなよ、みっともない!」 と言われる。が、それは彼には当っていなかった。彼は童貞をなくすことにはそう未練を持っていない。ただその場合だって、お互が人格的な関係にあることが、彼には絶対に必要だった。彼は友だちのように、「商売女は商売女さ」そうはなれなかった。彼はそういう女をどうしてもエロチックには感ぜられなかった。すぐその惨めさがきた。それで彼は生理的な発作のようにくる性慾のために、夜通し興奮して寝れないことがあった。こんなことで苦しむのはばかげたことかもしれない。が、プルドーンが、そんな時屋根の上にあがり、星を眺め、気を沈め、しばらくそうしてから室に帰り眠るということをきいて、同感だっ
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