の人たちが、まじめなおとなしい、相当教養ある世の中の役に立つ立派な人たちと言っているこれらの人々が、案外にも人類歴史の必然的な発展を阻止《そし》するこの上もない冒涜者《ぼうとくしゃ》であると思った。
龍介はそういう者たちの中にある自分の生活に良心的に苦しんだ。彼は自分ばかりでなく父のない自分の一家の生活を支えるために、この虚偽《きょぎ》の生活に縛られていたのだ。ここからくる動揺が恵子との事にも結びつき、結局、龍介にも何も仕事ができないのだった。
龍介からはこの生活の意識は離れない。しかし「事実の上で」、ここから一歩も抜きでない以上、それはただの考えとして檻《おり》の中の獅子《しし》のように、頭の中をグルグル廻るにすぎない。龍介はいつものように憂鬱《ゆううつ》になる自分を感じた。そういう気持になる理由がハッキリわかっているだけ、そして「考え」だけの上では結局どうにもぬけでれないということが分っているだけ、たまらなかった。まるで彼には二進《にっち》も三進《さっち》もゆかない地獄だった。そしてこういうことにさんざん苦しくなるといつでも彼は自分でも変に思うほど、かえってでたらめな気持になっ
前へ
次へ
全33ページ中18ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小林 多喜二 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング