をうかべて、二、三度頭をさげた。
「それ! 可哀相だと思ってめぐんでくださったんだ。お礼を言って。お金を……」
女の子は金を拾って年増の手に渡した。女は受取ると、それを眼の前にかざして、いくらの金かを手ざわりでしらべた。
「へえ、へえ……どうもありがとうございます」
その時もう一人金をなげた。そして「あんまりいじめるなよ」と言った。彼はそれ以上見ていられなかった。彼は自分が不機嫌に腹の底から興奮してくるのを感じた。雪の降りはひどくなっていた。後から分《わけ》の分らない三味線の音が聞えてきた。
Sはまだ帰ってきていなかった。Sの妹が、龍介が来たら、画を見て帰ってくれと兄に頼まれたと言った。そして、静物を描いた十二号大のカンバスを持ってきた。Sのお母さんが隣りの室から電燈を引張ってくると画の方にそれを向けて見せた。
「立派です」と龍介は言った。
「どういうもんですかねえ」とお母さんが笑った。
龍介は外へ出るときゅうに自家へ帰りたくなった。
四
汽車はもうなかった。龍介は帰りながら、自分の仕事の上で何かすばらしいことがしたいと思った。彼はいつでもむだにカフェーなどを廻
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