「この子は!」年増《としま》はバチで子供の肩をついた。「さあ、今度は唄うねえ、いいかい。――可愛いねえ……」そう言って、女は三味線の箱にさわる手首をちょっとつばでしめすと、しゃちこばった手つきで三味線をジランジランとならした。「さあ!」女の子をうながした。そしてア――ア――とすっかりかすれた声で出し[#「出し」に傍点]をつけてやった。
女の子は両手を袖《そで》の中にひっこめたまま、だまっていた。
「また!」年増はさも歯をかんでいるように言った。
女の子は本能的になぐられる時のように頭に手をあげた。
「まあ、この子!」年増はいきなり女の子の背を撥《ばち》でついた。女の子は足駄《あしだ》をころばすと、よろよろして、見ていた人の足元にのめった。
年増は「ええ、どうも、この子にァ、ハア困るんです。へえ、こんなようじゃ二人とも干上りですよ。へへへへへ、どう――して、こんな子を持ったのやら、へえ……」と、頭を時々さげて、立っている人の方を見ながら言った。「こうやってるんですけど、今晩は一文にもならないんですよ――この子が……」
誰かが金を投げてやった。眼の悪い年増は首をかしげていたが、笑顔
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