あゝなると、あいつ等も案外モロイもんだ。――然し問題は面白くなるよ。死物狂いで何か画策してるらしい。
然し何時でも側にいる笠原には、大体その見当がついていた。――彼等は、金菱の悪ラツ[#「ラツ」に傍点]な進出が如何に全工場の「親愛なる」職工を犠牲にし、その生活を低下させ、「Yのフォード」を一躍「Yの監獄部屋」にまで蹴落《けおと》してしまうものであるか、と煽動し、全従業員の一致的行動によって、没落に傾いている自分達の地位を守ろうとでもするらしかった。
――どうも一寸ひッかゝりそうだな。
と笠原が云った。
――然し金菱にかゝったら、いくら専務がジタバタしようが、桁《けた》から云ったって角力《すもう》にならない。これからは「金融資本家」と結びついていない「産業資本家」はドシ/\没落してゆくんだ。度々あるいゝ手本だよ。そう云えば※[#「┐<辰」、屋号を示す記号、82−3]《かなたつ》鈴木だって、手はこれと同じ手を喰らわされたんだ。金融資本制覇の一つの過程だな。
そればかりでなく、「H・S」の製罐数の大部分は親会社である「日露会社」に売込まれて、カムチャツカに出ていた。それで、一方には
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