に圧倒されていた。だから、今「H・S」が一緒になれば、日本に於ける製罐業を安全に独占出来るのだった。――その製品を全国的に「単一化」して生産能率を挙げることも、技術や工場設備の共通的な改良整理も出来、人員の節約をし、殊にその販売の方面では、今迄無駄に惹《ひ》き起された価格の低下を防いで、独占価格を制定し思う存分の利潤をあげることも出来るのだった。――だから、三田銀行が今迄とっていたような「単純な支配」ではなしに、金菱が積極的に事業そのものゝ中に、ドカドカと干渉してくることは分りきっていた。――これは職工たちの恐れていた「産業の合理化」が直接《じか》に、そして極めて惨酷に実行されることを意味していた。工場はその噂でザワ[#「ザワ」に傍点]めいていた。
然し問題はもっと複雑だった。
――今度のことでは、君、専務や支配人、工場長こいつ等の方が蒼白《まっさお》になってるんだぜ。
と、引継のために新しい銀行に提出する書類の作成で、事務所に残って毎日夜業をやらせられている笠原が云った。
――金菱では自分の系統から重役や重《おも》だった役員を連れてきて、あいつ等を追っ払う積りらしいんだ。然し
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