ばならなかった。一つは「H・S工場」の最近の動揺についてゞあった。
 四つの鉄工場から六人、三つの印刷工場から三人、二つのゴム工場から四人集った。それは各々背後にその工場の何十人かの意見を代表していた。
 その中に、森本が見習工のとき廻って歩いていた鉄工場の仲間が二人もいた。
 ――やっぱり俺達はな……!
 と云って、お互いに笑った。
「工代」をこのくらいのものにするのに、河田たちは半年以上ものジミな努力をしてきていた。――で、
「H・S会社」は戦々兢々《せんせんきょうきょう》としていた。社員も職工も仕事が手につかなかった。――それは三田銀行が日本の一流銀行である金菱銀行に合同されることから起った。政府は金融機関の全国的統制――その集中をはかっていた。この合同もそれだった。銀行はます/\巨大な、数の少ないものに纏《まと》められて行っている。で、今までの「H・S会社」に対する三田銀行の支配権は、当然金菱銀行にそのまゝ移って行った。
 ところが、金菱銀行は自分の支配下に「N・S製罐会社」「T・S製罐会社」この二つの会社を持っていた。然し今まで製罐業では、金菱系の会社は何時でも「H・S会社」
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