蟻を、そのニュースは思わせた。
 ――これからの運動は、街へ出てビラを撒いたり、演説をしたりすることではないんだぞ。
 河田は少し意識のついた若い職工が、ジリ/\し出すのを見ると、それを強調しなければならなかった。
 ――これからニュースを五年続けてゆく根気が絶対に必要なんだ。
「H・Sニュース」には安部磯雄と専務が握手をして、後手でこっそり職工の首を絞めている漫画が出た。「狐会議」が開かれている。大テーブルを囲んで、狐の似顔にされた工場長以下職長、社員が、職工に「馬の糞」の金を握らしている。それが「工場委員会」だった。「共済会」の基金や「健保」の掛金が何処にどう、誰の利益のために流用[#「流用」に傍点]されているか。――香奠《こうでん》や出産見舞に職工が一々「礼状」を書かせられて、食堂の入口に貼られるカラクリが嘲笑された……。
 そのどれもが、会社を「Yのフォード」だと思っていた職工を驚かした。

          十六

 ――嫌になるな、君。お君と河田が変なんだぜ。
 集会の帰り、鈴木が不愉快げに云った。森本はフイに足をとめた。――彼は前から、工場でもお君にキッスをしたというも
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