のが二人もいるのを知っていた。然し、それは如何にもあの[#「あの」に傍点]お君らしく思われ、不思議に気にならなかった。が、それが河田と! と思うと、彼は足元が急にズシンと落ちこむのを感じた。
 ――河田ッて、実にそういうところがルーズだ。
 ――…………。
 然しそういう鈴木が本当はお君を恋していた。彼は自分の「最後の藁《わら》」がお君だと思っていたのだった。彼はもう警察の金を二百円近くも、ズル/\に使ってしまっていた。彼は自分の惨めさを忘れなければならなかった。あせった。然しそのもがき[#「もがき」に傍点]は彼を更につき落すことしかしなかった。足がかりのない泥沼だった。――そして、今、彼は最後のお君までも失ってしまった。何んのために、自分は「集会」であんなに一生懸命になったのだ! ――こうなって彼は始めて自分の道が今度こそ本当に何処へ向いているかを、マザ/\と感じた。夜、盗汗《ねあせ》をかいたり、恐ろしい夢を見るようになった。
 四五日してからだった。
 ――芳ちゃんが、とても誰かに参っちまってるのよ。
 とお君はいたずらゝしく笑った。
 ――そしてクヨ/\想い悩んでるの。それアおか
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