不快さが直接《じか》に腕に伝わる。刃先から水沫のように、よ[#「よ」に傍点]れた鉄屑が散った。鍛冶場から、鋲付《リベッティング》の音が一しきり、一しきり機関銃のように起った。
 こゝは製罐部のような小刻《こきざみ》な、一定の調子《リズム》をもった音響でなしに、図太い、グヮン/\した音響が細い鋭い音響と入り交り、汽槌《スチーム・ハンマー》のドズッ、ドズッ! という地響きと鉄敷《かなじき》の上の疳高く張り上がった音が縫って……ごっちゃになり、一つになり、工場全体が轟々《ごうごう》と唸りかえっていた。鍛冶場の火焔が送風器で勢いよく燃え上ると、仕上場にいる職工の片頬だけが、瞬間メラ/\と赤く燃えた。
 天井を縦断している二条のレールをワイヤー・プレーをギリ/\と吊したグレーンが、皆の働いている頭のすぐ上を物凄《ものすご》い音を立てゝ渡って行った。それは鋳物場で型上げしたばかりの、機関車の車輌の三倍もある大きな奴で、ワイヤー受けの溝をほるために、横|穿孔機《ボールバン》に据えつけるためだった。
 ――頼むどオ! 南部センベイは安いんだ!
 身体を除《の》けながら、上へ怒鳴っている。
 ――まず緊
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