ゃん」のことを、名前を云わず彼に話してきかせた。
――友達はその女が不仕鱈《ふしだら》だという。でも不仕鱈ならお金を貰う筈がないでしょう。悪いのは一家四人を養って行かなければならない女の人じゃなくて――一日六十銭よりくれない会社じゃない? ――あんただって知ってるでしょう。会社[#「会社」に傍点]をやめて、バアーの女給さんになったり、たまには白首《ごけ》になったりする女工さんがあるのを。それはね、会社をやめて、それからそうなったんでなくて、会社のお金だけではとてもやって行けないので、始めッからそうなるために会社をやめるのよ。――会社の人たちはそれを逆に[#「逆に」に傍点]、あいつは堕落してそうなったとか、会社にちアんと勤めていればよかったのにと云いますが、ゴマかしも、ゴマかし!
森本は驚いて女を見た。正しいことを、しかもこのような鋭さで云う女! それが女工である!
――女工なんて惨めなものよ。だから、可哀相に、話していることってば、月何千円入る映画女優のこととか、女給や芸者さんのことばかり。
――そうかな。
――それから一銭二銭の日給の愚痴《ぐち》。「工場委員会」なんて何んの
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