肩と肩がふれた。森本はギョッとして肩をひいた。
――のどが乾いた。冷たいラムネでも飲みたい。何処かで休んで、話しない?
少し行くと、氷水《こおり》店があった。硝子のすだれ[#「すだれ」に傍点]が凉しい音をたてゝ揺れていた。小さい築山におもちゃの噴水が夢のように、水をはね上げていた。セメントで無器用に造った池の中に、金魚が二三匹赤い背を見せた。
――おじさん、冷たいラムネ。あんたは?
――氷水にする。
――そ。おじさん、それから氷水一ツ。
森本を引きずッて、テキパキともの[#「もの」に傍点]をきめて行くらしい女だと分ると、彼はそれは充分喜んでいゝと思った。彼はこれからやっていく仕事に、予想していなかった「張り」を覚えた。
――で、ねえ……。
のど[#「のど」に傍点]仏をゴクッ、ゴクッといわせて、一息にラムネを飲んでしまうと、又女が先を切ってきた。
――途中あんたから色々きいたことね、でも私ちがうと思うの。……会社が自分でウマク宣伝してるだけのことよ。女工さんは矢張り女工さん。一体女工さんの日給いくらだと思ってるの。それだけで直ぐ分ることよ。
お君は友達から聞いた「芳ち
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