事を一日中立って働いている女工たちは、日本の「女らしい」歩き方を忘れてしまっていた。――もう少し合理的に働かせると、日本の女で洋服の一番似合うのは女工かも知れない、アナアキストの武林が、武林らしいことを云っていた。
 工場では森本は女工にフザケたり、笑談口も自由にきけた。然し、こう二人になると、彼は仕事のことでも仲々云えなかった。一寸云うと、まずく吃《ども》った。淫売を買いなれていることとは、すっかり勝手がちがっていた。小路をつッ切って、明るい通りを横切らなければならないとき、彼はおかしい程|周章《あわ》てた。お君が後《うしろ》で、クッ、クッと笑った。――彼は一人先きにドンドン小走りに横切ってしまうと、向い小路で女を待った。お君は落付いて胸を張り、洋装の人が和服を着たときのように、着物の裾をパッ、パッとはじいて、――眼だけが森本の方を見て笑っている――近付いて来た。肩を並べて歩きながら、
 ――森本さん温しいのね。
 とお君が云った。
 ――あ、汗が出るよ。
 ――男ッてそんなものだろうか。どうかねえ……?
 薄い浴衣《ゆかた》は円く、むっつりした女の身体の線をそのまゝ見せていた。時々
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