道場もあった。「H・S会社」から幾分補助を貰っているらしかった。何処かにストライキが起ると、「一般市民の利益のために」争議の邪魔をした。精神修養、心神錬磨の名をかりて、明かにストライキ破りの「暴力団」を養成していたのだ。会社で「武道大会」があると、その仲間が中心になった。
森本は職場へ下りて行きながら、自分の仕事の段取と目標が眼の前に、ハッキリしてくるのを感じた。
その日家へ帰ってくると、河田の持って来た新聞包みのパンフレットが机にのっていた。歯車の装幀《そうてい》のある四五十頁のものだった。
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・「工場新聞」
・「工場細胞の任務とその活動」
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表紙に鉛筆で「すぐ読むこと」と、河田の手で走り書してあった。
十三
――女が入るようになると、気をつけなければならないな。運動を変にしてしまうことがあるから。
河田がよく云った。――で、森本もお君と会うとき、その覚悟をしっかり握っていた。
「石切山」に待ってゝもらって、それから歩きながら話した。
胸を張った、そり身のお君は男のような歩き方をした。工場で忙がしい仕
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