とが出来る。会社がダン/\職工たちに対して、積極的な態度をもってやってきている。それに対する何かの用意[#「何かの用意」に傍点]ではないか? ――彼はます/\その重大なことが近付いていることを感じた。
彼はまだ「工場細胞」というものゝ任務を、それと具体的には知っていない。然し彼は今までの長い工場生活の経験と、この頃のようやく分りかけてきたその色々な機構《しくみ》のうちに、自分の位置を知ることが出来るように思った。――
――で、この機会に、工場の中にも社民党の基礎を作ろうと思うんだ。……仕上場の方にも一通りは云ってきた。――その積りで頼むぜ。
佐伯はそれだけを云うと、トロッコ道を走って行った。走って行きながら、ブリキを積んだトロッコを押している女工の尻に後から手をやった。それがこっちから見えた。女がキャッ! とはね上って、佐伯の背を殴《な》ぐりつけた。
――ぺ、ぺ、ぺ!
彼はおどけた恰好に腰を振って、曲がって行った。
佐伯は労働者街のT町で、「中心会」という青年団式の会を作っていた。その七分までが「H・S」の職工だった。彼は柔道が出来るので、その会は半分その目的を持っていた。
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