ってるわ、頼んで。――本当に、どんな気で他人の働いてるのを見に来るんだか。
 ――何が恥かしいッて。お嬢さん面へ空罐でも打《ぶ》ッつけてやればいゝんだ。動物園と間違ってやがる。
 ――よオ! よオ!
 ――何がよオだい。働いた金でのお嬢さん面なら、文句は云わない。何んだい!
 ――へえ、キイ公も偉くなったな。どうだい、今晩活動をおごるぞ。行かないか。月形竜之介演ずるところの、何んだけ、斬人斬馬の剣か。人触るれば人を斬り、馬触るれば馬を斬る! 来いッ、参るぞオ――だ。行かないか。
 ――たまには、このお君さんにも約束があるんでね。
 ――キイ公めっきり切れるようになったな。
 お君は今晩「仕事」のことで、森本と会わなければならなかった。――
 階段を上ってくる沢山の足音がした。
 ――さア、来たぞ※[#感嘆符二つ、1−8−75]

          十一

 その昼、森本は笠原を誘って、会社横の綺麗《きれい》に刈り込んだ芝生に長々とのびた。――彼はこういう機会を何時でも利用しなければならなかった。笠原は工場長の助手をしていた。甲種商業学校出で、マルクスのものなども少しは読んでいるらしか
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