った。
そこからは、事務所の前で、ワイシャツの社員がキャッチボールをやっているのが見えた。力一杯なげたボールがミットに入るたびに、真昼のもの憂い空気に、何かゞ筒抜けていくような心よい響きをたてた。側に立っていた女事務員が、受け損じると、手を拍《う》ってひやかした。
が、工場の日陰の方には、子供が負ぶってきた乳飲子を立膝の上にのせて、年増の女工が胸をはだけていた。それが四五組あった。
森本は青い空をみていた。仰向けになると、空は殊更に青かった。――その時、胸にゲブゲブッと来た。森本は口の中でそれを噛《か》み直した。
――オイ!
側にいた笠原が頭だけをムックリ挙げて、森本を見た。
――……? 反芻《はんすう》か? 嫌な奴[#「嫌な奴」に傍点]だな。
彼は極り悪げにニヤ/\した。
森本が会社のことを色々きくのは笠原からだった。
会社は今「産業の合理化」について、非常に綿密な調べ方をしていた。然し合理化の政策それ自体には大した問題があるのではなくて、その政策をどのような方法で実行に移すかということ――つまり職工たちに分らないように、憤激を買わないようにするには、どうすればいゝ
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