程度に独占している「H・S会社」としては、工場の設備や職工の待遇をこの位のものにしたとしても、別に少しの負担にならなかった。而《しか》も、その効果は更に職工たちに反作用してくることを予想しての歓迎だった。――「俺ンとこの工場は――」「俺の会社は――」職工たちはそういう云い方で云う。自分の[#「自分の」に傍点]工場が誰かに悪口をされると、彼等はおかしい程ムキになって弁護した。三井に勤めている社員が、他のどの会社に勤めている社員の前でも一つのキン[#「キン」に傍点]恃《じ》をもっている。そういう社員は従って決して三井を裏切るようなことをしない。「H・S」の専務はそのことを知っていたのだ。
伝令が来た。幼年工を使ってよこした。
――来たよ。シャンがいるよ。
――キイ公、聞いたか。シャンがいるとよ。
――どれ、俺も敵状視察と行ってくるかな。
同じパッキングにいる温《おとな》しい女工が、浮かない顔をしていた。
――ね、君ちゃん、私いやだわ。女学校なら、小学校のとき一緒の人がいるんだもの。
――構うもんかい!
お君は男のような云い方をした。
――こっちへ来たら、その間だけ便所へ行
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