――誰だか分ったの?
――それアもう! そういうことはねえ。
――…………?
――芳ちゃんさ[#「芳ちゃんさ」に傍点]!
――馬鹿な!
お君は反射的にハネかえした。
――フン、それならそれでいゝさ。
女は肩をしゃくった。
お君は一寸だまった。
――相手は?
――相手? お金商売だもの一日変りだろうよ。誰だっていゝでしょうさ。
何時でも寒そうな唇の色をしている芳ちゃんは、そう云えば四人の一家を一人で支えていた。お君はそのことを思い出した。――それをこんな調子でものを云う女に、お君はもち前の向かッ腹を立てゝしまった。
――でも、妾《わたし》たちの日給いくらだと思っているの。五十銭から七八十銭。月いくらになるか直してごらんよ。――淫乱《すき》なら無償《ただ》でやらせらアねえ!
お君は飯が終って立ちかけながら、上から浴びせかけた。そして先きに食堂を出てしまった。
――馬鹿にしてる!
十
午後から女学生の「工場参観」があると云うので、男工たちは燥ゃいでいた。
――ヘンだ。ナッパ服と女学生様か! よくお似合いますこと!
女工たちは露骨な
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