仲良しの女工に呼ばれて、そこで腰を並べて、昼食をたべた。
 ――ねえ!
 ワザ/\お君を呼んだ話好きな友達が、声をひそめた。
 ――驚いッちまった!
 女は昨日仕事の跡片付けで、皆より遅くなり、工場の中が薄暗くなりかけた頃、脱衣場から下りてきた。その降り口が丁度「ラバー小屋」になっていた。知らずに降りてきた友達はフトそこで足をとめた。小屋の中に誰かいると思ったからだった。女の足をとめた所から少し斜め下の、高くハメ込んである小さい硝子窓の中に――男と女の薄い影が動いている。
 ――それがねエ!
 女は口を抑えて、もっと低い声を出した。
 男はこっちには背を見せて、ズボンのバンドをしめていた。女は窓の方を向いたまゝうつ向いて、髪に手をやっている。男はバンドを締めてしまうと、後から女の肩に手をかけた。そして片方の手をポケットに入れた。ポケットの中の手が何かを探がしているらしかった。
 ――お金よ! 男がそのお金を女の帯の間に入れてやったのよ、どう?
 ――…………※[#感嘆符疑問符、1−8−78]
 ――で、その女の人一体誰と思う?
 いたずらゝしい光を一杯にたゝえた眼で、お君をジッと見た。
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