を見廻わした。
二人は大通りから入ったカフエー・モンナミを見付けた。そこのバネ付のドアーを押して二階へ上った。――特高は彼には勝手に、ビールやビフテキを注文した。
――断っておくが、こういう事は君たちの勝手にすることで、別に……。
みんな云わせずに、
――分ってるよ。固くならないでさ。一度位はまアゆっくり話もしてみたいんだよ。――いくら僕等でもネ。
と、云って、ヒヽヽヽヽと笑った。
彼はもう破れ、かぶれだと思った。彼はそこでのめる[#「のめる」に傍点]程酔払ってしまった。――
「二階」の会合の時も、河田が急いでいたらしかったが、鈴木は自分から先きに出てしまった。ジリ/\と来る気持の圧迫に我慢が出来なかったのだ。――下宿に帰ってくると、誰か本の包みを置いて行ったと云った。彼はそれを聞くと、その意味が分った。
二階に上って行って解いてみると、知らない講談本だった。彼は本の背をつまんで、頁を振ってみた。ぺったり折り畳まった拾円紙幣が二枚、赤茶けた畳の上に落ちてきた。
彼はフイ[#「フイ」に傍点]に顔色をかえた。――拾円紙幣が出たからではない。知らずに[#「知らずに」に傍点]本
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