じて、直ちにそして同時に、Y市全体の工場の問題にすることが出来るのだ。この仕事を地下に沈ませて、強固にジリ/\と進めていく! それこそ、どんな「弾圧」にも耐え得るものとなるだろう。この基礎の上に、根ゆるぎのしない産業別の労働組合を建てることが出来る。――河田は眼を輝かして、そのことを云った。
――ブルジョワさえこれと同じことを已《すで》にやってるんだ。工場主たちは「三々会」だとか、「水曜会」だとか、そんな名称でチャンとお互の連絡と結束を計ってるんだ。
暗い階段を両方の手すり[#「手すり」に傍点]に身体を浮かして、降りてくると、河田も降りてきた。
――君は大切な人間なんだ。絶対に警察に顔を知られてはならないんだからね。
森本は頬に河田の息吹きを感じた。
――「工場細胞」として働いてもらおうと思ってるんだ。
彼の右手は階段の下の、厚く澱んだ闇の中でしっかりと握りしめられていた。
彼は外へ出た。気をとられていた。小路のドブ板を拾いながら、足は何度も躓《つまず》いた。
――工場細胞!
彼はそれを繰り返えした。繰りかえしているうちに、ジリ/\と底から興奮してくる自分を感じた。
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