を通ることでもあると、女工たちの間はそれア喧しいものです。
 森本は声を出して笑って、
 ――男の方だって、さアーとした服を着ている社員様をみるとね。ところが、会社には勤勉な職工を社員にするという規定があるんです。会社はそれを又実にうまく使っているようです。ずウッと前に一人か二人を思い切って社員にしたことがあります。然しそれはそれッ切りで、それからは仲々したことが無いんですが、そういうのが変にき[#「き」に傍点]いてるらしいんです。
 河田は誰よりも聞いていた。鈴木は然し最後まで一言もしゃべらなかった。拇指《おやゆび》の爪を噛んだり、頭をゴシ/\やったり――それでも所々顔を上げて聞いたゞけだった。
 森本は更に河田から次の会合までの調査事項を受取った。「工場調査票」一号、二号。
 河田はこうしてY市内の「重要工場」を充分に細密に調査していた。それ等の工場の中に組織を作り、その工場の代表者達で、一つの「組織」と「連絡」の機関を作るためだった。「工場代表者会議」がそれだった。――河田はその大きな意図を持って、仕事をやっていたのだ。ある一つの工場だけに問題が起ったとしても、それはその機関を通
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