年輩の職工は小鳥を飼ってみたり、花鉢を色々集めてみたり、規帳面《きちょうめん》にそれの世話をしてみたり、公休日毎に、家の細々した造作を作りかえてみたりする人が沢山《たくさん》いた。職工の一人は工場へ鉢を持ってきて、自分の仕事台の側にそれを置いた。
 ――花のような美人《べっぴん》ッて云うべ。んだら、これ美人《べっぴん》のような花だべ。美人の花ば見て暮すウさ。
 工場に置かれた花は、マシン油の匂いと鉄屑とほこりと轟々たる音響で身もだえした。そして、其処では一週間ももたないことが発見された。
 ――へえ!
皆は眼をまるくした。
 ――で、人間様はどういう事になるんだ?
 居合わせた森本がフト冗談口をすべらした。――すべらしてしまってから、自分の云った大きな意味に気付いた。
 胴付機《ボデイメエカー》の武林が小馬鹿にして笑った。
 ――夜店で別な奴と取りかえてくるさ。労働者はネ、選《よ》りどり自由ときてらア、ハヽヽヽヽヽ。
 新聞社の印刷工などに知り合いを持っているアナアキストの職工だった。――
 父が裏口から何か云っている。声が聞えず、動く口だけが汚れた硝子《ガラス》から見えた。
 ――お
前へ 次へ
全139ページ中21ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小林 多喜二 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング