ちは「俺らはお前たちの仲間とは異《ちが》うんだぞ」という態度をオッぴらに出して、サッサと彼等の前を通り過ぎてしまった。この事は然し脱衣室の前の貼紙がなくても、そうだったのだ。
 浜人足――この運輸労働者達は「親方制度」とか「現場制度」とか、色々な小分立や封建的な苛酷な搾取《さくしゅ》をうけ、頭をはねられ、追いつめられた生活をしているので、何かのキッカケでよくストライキを起した。Y市の「合同労働組合」はこれ等の労働者をその主体にしていた。しかし「H・S工場」の職工は一人も入っていないと云ってよかった。
 森本はその浜の労働者のうちに知った顔を幾つか見付けた。組合で顔を合せたことのある人達だった。然し彼は今、この職工たちの中にいては、その人達に言葉をかける「図々しさ」を失っていた。

          四

 父は帰っていなかった。――六十を越している父は、彼より朝一時間早く出て行って、二時間遅く帰ってくる。陸仲仕の「山三現場」に出ていた。耳が遠くなり、もう眼に「ガス」がかゝっていた。電話の用もきかず、きまった仕事の半分も出来ないので、親方から毎日露骨にイヤな顔をされていた。然し二十年以
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