始め「ホオッ!」と思った。皆が服の袖に手を通しながら、その前に立っていた。
[#ここから3字下げ、罫囲み]
   告

 皆サンモ知ッテイル通リ、本日何者カヾ当工場ニ「失業者大会」ノビラ[#「ビラ」に傍点]ヲ撒イテ行キマシタ。云ウマデモナク最近ノ不況ハドシ/\失業者ヲ街頭ニ投ゲ出シテ居リ、ソレハ全く見ルニ忍ビナイモノサエアルノデス。然シ我工場ハ幸イニシテ、皆サンノ勤勉努力にヨッテ、ソノ些々タル影響モ受ケテイナイノデアリマス。一度工場外ニ足ヲフミ出シテ見レバ分ル通リ、当工場ハマサニ「Yノフォード[#「Yノフォード」に傍点]」タル名ニ恥シクナイ充分ノ待遇ヲ、ソノ時間ノ点カラ云ッテモ、ソノ賃銀ノ上カラ云ッテモ、皆サンニ与エテ居ルノデアリマスカラ、コノ際決シテ、カヽル宣伝ニ附和雷同セザル様、呉々モ申述ベテ置ク次第デアリマス。
 右[#地から1字上げ]工場長
[#ここで字下げ終わり]
 森本はそれを読むのに何故かあせり[#「あせり」に傍点]を感じて、字を飛ばした。
 ――チエッ! 行きとゞいてやがる!
 彼はその言葉が、自分ながら不覚にもかぶと[#「かぶと」に傍点]を脱いだ心のゆるみを出している
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