―河田か?
 相手は確かに吃驚《びっくり》したらしかった。
 ――ダレダ?
 ――森!
 ――モリカ?
 相手も分ったのだ。彼は全身の神経を耳に持って行った。
 ――ゲン……
 ――げん?
 ――ゲンキカ。
 ――あ、元気か。元気だ。
 …………。
 何を云ったか、分らなかった。
 ――分らない、もう少し大きく!
 ――コーバ……。
 ――工場、ん。
 ――ダイジョウブカ。
 ――ん、うまく行った。
 ――アトハ……。
 ――後は?
 ――ドウダ。
 ――大丈夫だ。
 ――ヘ…………。
 ――ん?
 ――ヘコタレルナ。
 ――ん!
 ――イツ……。
 ――何時?
 ――イヤ、イツデモ。
 ――何時でも。
 ――ゲンキで……………。
 ――分った!
 彼は、この不自由に話されているうちにも、いつもの河田を感じた。フウッと胸が熱くなった。彼はのどをゴクッとならした。
 ――ダレカ……、
 ――ん。
 ――ナカマデ……。
 ――ん? 中迄?
 彼は一生懸命に耳をあてた。
 ――イヤ、ナカマ。
 ――あ、仲間。
 ――ウ……ラ……。
 ――う……ら……。
 河田の言葉がハッキリしなかった。が彼
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